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僕の心の言の葉。

短い自作小説、作文のブログです。多くの人に言葉が届いてくれたら嬉しいです。

『アンハッピーバレンタイン』

 今日はいつもより一層面倒だ。何より後ろに積んでいる荷物を取り出そうとする度にどうも甘ったるい匂いがする。別に俺は甘いものが嫌いとかそういうことではない。ただ、その甘い荷物の中に一つも俺に宛てた物が無いというのが俺の気分を沈ませている原因だった。まぁ今までで貰った数も片手に収まる程しか無いのだが…。

 サラリーマンになっていれば義理チョコなら沢山貰えたのだろうかなどと考えているうちに次の目的の家に着く。俺は甘い匂いのする袋の一つを抱えてチャイムを押した。出てきたのは若い男性。真面目そうで、少なくとも俺よりはイケメンだ。荷物を渡すと男性は目を輝かせた。遠くにいる彼女からのものらしい。正直そんなことを俺に説明されても困る。さっさと仕事を終わらせたかった。

 肉体的だけでなく精神的なダメージも受けながら仕事をこなしていく。次の荷物からも甘い匂いがした。チャイムを押す。出てきたのは小さな女の子だった。小学校低学年くらいだろうか。俺は聞いた。

「お届けものです。お母さんかお父さんはいますか。ハンコかサインが欲しいのですが。」

「お兄さん!それかなちゃんから?チョコかなぁ!」

流石に戸惑う。宛先を見ると確かに女の子が望む物ではあるようなのだが…。

「多分そうだと思うよ。申し訳無いんだけど、ハンコかサインが無いと渡せないから、お願い出来るかなぁ。」

精一杯の笑顔で俺は言う。子供は好きなのだが、仕事中だとどうも対応が難しい。

「分かった!」

女の子は元気良く答えると家の中に戻っていった。少し時間が掛かっていたので、俺はてっきり女の子の親が出てくる物だと思っていたが、出て来たのは先程の女の子だった。

「はい!これハンコ!後これもお兄さんにあげる!」

女の子は俺にハンコと市販で売っているチョコを渡して来た。

「かなちゃん今遠くて中々会えないから電話で今年もチョコ交換しよって話してたの!嬉しいからお兄さんにもこれあげる!」

俺は一瞬何が何だか分からなかった。女の子の目を輝かせている様子だけが俺の目に映った。

俺は我に返り、女の子にありがとうと精一杯の笑顔を見せるとハンコを渡してそのチョコを受け取った。

 嬉しいとか幸せとかは思わなかったけれど、ただ漠然と頑張ろうと思った。俺自身は幸せな訳では無いけれど、俺が荷物を届けることで誰かが幸せな気分になってくれるならそれはそれで良いのかもなと思ったのだ。俺は女の子から貰ったチョコを口の中に入れると、車のエンジンをかけた。今日の仕事をこなすために。

 

 

あとがき:皆さんチョコは貰えましたか?私は貰えてません!悲しいです。そんな気分もありまして、今日の文章の内容に至りました。バレンタインにも人によって様々な形があることと思います。幸せな気分とはいかなくても、嫌な一日だったと思わない日になると良いですね。

もちろん私もなのですが。

それではまた別の文章で。