『花は口よりも雄弁である』
どうもどうもお初にお目に掛かりますね。
え?姿が見えないって?嫌だなぁすぐ側にいるじゃないですか。足元ですよ足元。そうそうそこにいるでしょ私が。花ですよ花。名もなき路傍の花でございます。
貴方、暇そうにしているから少し私の話を聞いていって下さいよ。暇じゃないって?嫌だなぁ、さっきどうやって時間潰そうっておっしゃってたじゃあないですか。意外と良く聞こえるもんなんですよ、こう見えても耳は良いんでね。
…あ、花はあっても耳は無かったか。これは失敬失敬。まぁそんなことは置いといて、少しお時間ちょうだいいたしますね。
改めまして、私は花でございます。本当に只の路傍の花。貴方を呼び止めましたのはほんの気まぐれってだけじゃなくてちゃんと伝えたいことがありましてですね、まぁ気まぐれで誰かを呼び止めたくなるくらい暇なことには間違いないんですけどね。だってここで咲いているくらいしかすることが無いんですから、本当に最低な一生ですよ。
まぁそんな私の話は置いときましてね、貴方、何か悩んでることがあるでしょう。こう見えても私だって一端の花でございます。本当は誰かに見て貰いたくてこうして咲いているんですけど、誰にも気づいて貰えないから逆に人を見ることにした訳なんですよ。貴方、いつもこの道を通るでしょう?しかも必ず下を向いて。ずっと下を向いているくせに私のことには一切気づかないんだもの、これは視界が狭くなってるなと勘付いたんですよね。
なになに?友達が出来ないだって?なるほど、確かにそりゃあ下も向きたくなる。でも視界が狭けりゃ、世界も狭く考えているんじゃないかい?この世界にはいろんな人がいる。私が見てきただけでも数え切れないんだからきっとよっぽどの数さ。その中で友達になるのはほんの一握り。だから貴方は出会いを大切にしなきゃいけないよ。そんな狭い視界じゃ相手のことなんて何も見えやしない。相手のことをもっと知ろうとするんだ。不安だって?そんなこと言わずに人間やってみればどんなことでもなんとかなるもんさ。まぁ私は花なんだけどね。
私は貴方に気づいて貰えて、こうして話せてとても嬉しい。きっと人同士だって相手のことを良く知って話せば喜んで貰えるさ。ほら!頑張りな!これで私の話は終わりだよ。話に付き合ってくれてありがとう。
次の日、そこに花は無かった。これは手も口もない唯の花に、背中を押された私の不思議な話。
あとがき:今までとちょっと変わった感じのお話にしました。人によっては読みにくかったりする文章かもしれません。何気ない普段と同じ景色の中にも新たな発見があることって少し幸せな気分になれると思います。花から見たお話はまた機会があれば書いてみようかなと思います。
それではまた別の文章で。