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僕の心の言の葉。

短い自作小説、作文のブログです。多くの人に言葉が届いてくれたら嬉しいです。

『とある19時15分に』

 人が右へ左へと流れていく。私はただ一人で立ち竦み、その人の波に困惑するばかりだった。スーツ姿の男性。笑顔だ。これからデートでもあるのだろうか。大きな荷物を持った女性。これからどこか旅行へでも行くのだろうか。全ての人に何かしらの物語があるとは正にその通りだと思う。いつもの私ならそう思うだろう。でもここは何か違う。

 慣れ。確かにその一言で片付けてしまうのは簡単だろう。しかし私だって人混みに不慣れという訳では無い。田舎に居た私だが、都会にも遊びに出るようになり、人が多いというだけで躊躇うようなことはあまり無かった。

 ここは言うなれば海だった。私の目の前を通り過ぎて行く人は多種多様な魚である。それは時に同じ様な格好をして、群れというに相応しかった。群れと言うと最初に思い浮かべるのは鰯である。鰯の群れは大きな魚へ対抗する為に作られる。私の目の前を通り過ぎて行く人達も社会という大きな魚へと立ち向かっているのだろうか。

 普段ならそれで終わりだ。ちょっと上手い例えが浮かんだなと小さな自画自賛をして終わり。そんな私である。しかし、今の私は違った。私が何であるか上手く例えることは出来ないが、頭にパッと浮かんだのは海藻だった。人の波に漂う。魚と交わることは無い。だからいつもと同じ思考が持ちきれない。

 でも違う。違うのだ。そんな自由な状況ではない。鰯の群れに気後れをする。私はどうしたら良いのかが分からない。私は何なのだ。そんな時だった。

「ごめん!遅くなった!」

聞き覚えのある声だった。その声を聞いた瞬間に、私は小さな鰯の一匹になったのだった。

 

 

あとがき:前回の投稿より日が空いてしまい申し訳ないです。皆様は待ち合わせの時、どんなことを思うでしょうか。早く合流したいと思いませんか?無事合流出来ると安心しますよね。合流しないと何も始まらない。そんな無力な一時が伝わって頂ければ幸いです。それではまた別の文章で。